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ブランドストーリー

ブランドストーリー

「ぴりり」のリブランディング

「ぴりり」のリブランディング

「日常に、ぴりりとしたスパイスを」をコンセプトに掲げる株式会社fm craic(エフエムクラック)。20211月に事業承継し、新代表に就任した釘田和加子さんの「女性に元気を与えたい」との想いが込められている。fm craicは滋賀県湖南市の伝統野菜である「弥平とうがらし」を使用し、スパイスやチリソースを製造販売する会社で、Mana Designによる提案を快諾しリブランディングに着手。ブランドコンセプトや商品パッケージ、ロゴ、WEBSNSなどトータルでデザインを担当した。改めてこれまでの道のりを振り返り、未来について語っていただきました。

 

事業承継を機に始まったリブランディング

――2018年から2021年まで湖南市の地域おこし協力隊として活動し、現在fm craicの代表を務める釘田和加子さんと、湖南市在住のデザイナー、Mana Designの中土真奈さん。お2人の出会いと今回のリブランディングが始まった経緯について教えてください。

中土:もともと、他の地域おこし協力隊の方とも接する機会が多かったこともあり、いつの間にか、同じコミュニティにいた感覚です。明確なきっかけがあるわけではなく、自然と話すようになりました。

釘田:そうですね。仕事に関する相談も、既存のパンフレットの増刷と名刺の作成のお願いが初めてだと思います。おそらく、事業承継の数ヶ月前くらい。この段階では、何かを変えようという意識はまったくありませんでした。

中土:私もパンフレットの増刷の相談を受けた際、一度はそのままお引き受けしようと思いました。ただ、そこで立ち止まったのは、私自身がブランディングの重要性を再認識し、さらに注力しようと考えていたタイミングであることが大きいです。

――偶然のタイミングに、お2人の縁を感じます。真奈さんは、どのように話を持ちかけられたのですか?

中土:当時は、J R草津線「石部駅」の待合室で、地域おこし協力隊の活動の一環として、釘田さんがチャイ屋さんを開店していたんです。そこに足を運び、ブランディングについて提案をさせてもらいました。

釘田:真奈さんが来てくれたときのことは、よく覚えています。当時の私は、製造などの実務で頭がいっぱいでした。「デザインを変える」という発想がなく、事業承継のタイミングで変える重要性についても丁寧に説明していただき、納得感と新しい気づきがありました。

 

代表の想いを丁寧に引き出し伴走

――リブランディングを始めるにあたって、進め方について教えてください。

中土:まず、時間を割いたのは想いの整理です。釘田さんがなぜ事業承継を決めたのか、どのような想いで引き継ぎ、どのようなビジョンを描いていきたいのかなどの話を聞くことから始めました。同時に、競合調査などのマーケティング面も進めています。

釘田:期間は、半年くらいですかね。週に1回、時間をかけて深掘りしてもらったことで、自分のなかで整理ができました。今もふと迷いが生まれたとき、真奈さんに相談すると「1年目のリブライディングの話のなかで、こんな話をしていましたよ」と、自分の軸となる部分について再確認できます。

何年経っても初心にかえれるのは、最初の段階でしっかり向き合ってもらい、自分の想いがクリアになった状態でスタートできたことが大きいですね。

――すごくまっすぐに信念を持って事業を営まれている印象ですが、紆余曲折があったのですね。

釘田:はい、私が扱う弥平とうがらしは湖南市の伝統野菜であり、関わる人も多いです。事業承継をしたことで、注目を集め、より多くの意見をいただきました。その結果、自分の立ち位置がわからなくなり、身動きが取れなくなったことも。

真奈さんとの対話を繰り返し、少しずつ道筋が見えてきたときには、ホッとしました。

――ヒアリングをする際、真奈さんが意識していたことはありますか。

中土:心がけていたのは、釘田さんの想いの変化についていくことでした。私が軌道修正するというよりも、一緒に考えて一緒に悩む。そのような立ち位置を大切にしていましたね。

釘田:急かされることなく、丁寧にコミュニケーションをとってもらえたので、安心感・信頼感のベースができていきました。だから、相談に対するフィードバックにも満足感があり、今も些細なことも気軽に相談できます。時間をかけてもらえて、本当によかったです。

中土:ありがとうございます。さらに話すなかで、釘田さんの「弥平とうがらしのスパイスを通して、日常の中の非日常、リフレッシュの時間を感じて欲しい」との想いに注目し、コンセプトである「日常に、ぴりりとしたスパイスを」が生まれたんですよね。

釘田:そうそう。ターゲットについて、いろいろと話をするなかで、「30代・40代の同世代の女性に元気になってほしい」という話が出てきました。ターゲットを明確にしつつ、日々のごはんにピリッとしたスパイスを加えて元気になったり、気分を変えたり、そんなリフレッシュのタイミングに「ぴりり」を使ってもらいたいと話しました。

――スパイスは、最高の気分転換だと思います。ロゴも新しくなりましたよね。

中土:はい、リブランディングにあたり、ロゴも一新しました。インドが好きな釘田さんならではのエッセンスを加えたいと考え、インド建築物を思わせるエキゾチックな門扉を描きました。

釘田:それから、私が雑談のなかで「鳥モチーフが好き。鳥の雑貨を結構買っちゃう」と話していたところから、真奈さんが連想し、鳥を入れることを提案してくれました。

中土:スマホの待受も、鳥、孔雀でしたよね。

釘田:よく覚えてくださっていますね。今も同じです(笑)。

中土:(笑)。あと、鳥は唐辛子の辛味を感じないそうなんです。食べていろいろな地域に種を広げるという話から、弥平とうがらしの魅力が広く伝わるようにと、とうがらしを咥えた鳥をロゴのなかに描きました。

――鳥の話は、初めて知りました。素敵なストーリーですね。パッケージの誕生秘話も、ぜひ聞きたいです。

中土:パッケージに関しては、実は、当初の案から大きく変わっています。「ぴりり」の文字もヒンディー語のような雰囲気で記載していたんです。全体的にエスニックな雰囲気のデザインで、9割以上進めていました。

釘田:すごくお気に入りのデザインで、ずっとサンプルを持ち歩いていました。創業者の方にも見せたところ「めっちゃいい!」と言ってもらえましたし、周りの人の評判もすごくよかったんです。

中土:ただ、その後、スパイス関係の専門家の方の話を伺う機会もあり、方向性を大きく変えました。ブランディングは、顧客の声や想いを拾い上げることも大事です。想いを起点にスタートしつつ、今後既存の販売店様やファン層以外にも売り込むうえでは、さらに目線を広げる必要があると考え、現在のパッケージデザインをつくりました。

――かなり思い切った方向転換ですね。

釘田:最初は、私もニッチな層だけに届けばいいと思っていました。ただ、真奈さんと話すなかで、考え方も少しずつ変わり、より多くの人、より幅広い年代の方に受け入れてもらえるデザインの大切さという視点も気付かされました。

――以前のデザインも気になりますが、現在のデザインも弥平とうがらしの形がかわいくて目を惹きます。

中土:そうなんです。このとき、ちょうど弥平とうがらしの収穫時期と重なっていたこともあり、私も、採れたての状態を改めて目にすることに。釘田さんと「もの自体がすごくかわいい」という話をして、とうがらしを前面に出す方向でデザインを行いました。

釘田:その話は、私もよく覚えています。それから、20219月、リニューアル発表に向けて急ピッチですべての準備を進めていきました。

 

販路拡大と新規顧客の獲得

――商品パッケージやWebサイトのリニューアル、SNSの開始などを経て、変化の実感はありますか?

釘田:今回、リニューアルのタイミングで価格改定を行っています。離れてしまうお客様もいると危惧したのですが、売上としては上向いており、新規顧客の獲得という点はクリアできました。

また、真奈さんに運用代行を依頼し、新しくfm craicSNSを始めたことで、新たな層に届いている実感があります。業務用をご購入いただき、料理に使用してくださる店舗様も、県内外ともに増えてきました。

――取り扱い店舗の変化についても教えてください。

釘田:既存の取り扱い店舗である県内の道の駅や個人店様、東京にある滋賀県のアンテナショップ「ここ滋賀」のほか、新たに「湖のスコーレ」や「琵琶湖マリオットホテル」、東京の地域産品セレクトショップ「アナザー・ジャパン」、「麻布台ヒルズ」などにも置いていただけるようになり、取り扱い店舗は約1.5倍に増えました。

中土:釘田さんから、取扱店が増えたと連絡が来るたびに、私も嬉しく思っています。

釘田:ぴりり自体の製造工程は、まったく同じです。品質には、もともと自信がありますが、ホテルやセレクトショップ等に置いても遜色ないデザイン、商品だと思っていただけていることが、とにかく嬉しいです。ブランディングの力ですね。

――新商品「ビリヤニキット」についても聞かせてください。

釘田:商品自体は、私が事業を始める前から、構想を練っていました。真奈さんには何度も味見をお願いしつつ、デザインを一緒に進めてもらった形です。

中土:最初は、販売数が読めないため、小ロットからの製造です。いかにコストを下げるかを考え、既製品をうまく取り入れたデザインを考えました。また、袋の透明窓の部分から、中に入っている八角などのスパイスが見えるようにしています。窓から見えるスパイスを通じて、コンセプトである「日常に、ぴりりとしたスパイスを」を感じてもらいたいなと。

また、リーフレットのQRをスマホで読み込むと、レシピ動画を見てもらえるように、動画も作成しました。

釘田:お客様からは、よく「動画を見てつくってみました」という声をいただきます。動画があることで、イメージがしやすくなり購入へのハードルが下がっていると思います。動画制作もお願いできて良かったです。

――動画があると確かに心強いです。ビリヤニのおいしさにハマる方がこれからも増えるといいですね。もうひとつ、期間限定商品「びりり」が生まれた経緯も教えてください。

釘田:はい。2022年に BSJapanext のテレビ番組「西川貴教のバーチャル知事」へのゲスト出演が決まりました。早速真奈さんに話したところ、イナズマロックフェスに合わせて「びりり」のパッケージデザインを見せてくれたんです。

中土:イナズマだから「びりり」。「この辛さ、稲妻級」という文字も入れて、つくりました。釘田さんに見せたところ、釘田さんもノってくれて。

釘田:これは面白いなと。放送前に制作の方に話を通し、本番で西川さんに見ていただきました。「何勝手にしてくれとんねん(笑)」のツッコミと「かわいい」の褒め言葉をもらえてすごく嬉しかったです。

その後、ここ滋賀の一角に「バーチャル知事コーナー」が誕生したため、「弥平とうがらし びりり【限定イナズマパッケージ】」を置いていただきました。

中土:西川さんファンの私の友人も、購入したと言っていました。

釘田:ありがたいことです。公認商品ではありませんが、西川さんのチェックも通っていますので、これからも楽しく自由にやっていきます。

 

Mana Designとともに歩む未来

――釘田さんから見たMana Design(真奈さん)は、どんな存在ですか。

釘田:事業承継前から、ずっと一緒に歩んでもらっていますので、なくてはならない存在です。特に初年度は、右も左もまったくわからない状態。気持ち的にも、かなり頼っていました。今も、相談するなら、まず真奈さん。「お客様が増えました!」などの報告も、まず真奈さん。デザイナーさんという立場でありつつ、会社に一番近い存在の相談役です。

例えば売り場の相談の話も最初にする相手です。解決策はデザインかもしれないし、意見だけくれるかもしれない。本当に小さなことでも気軽に話せる存在です。

――真奈さんから見たfm craic(釘田さん)は、どんな存在ですか。

中土:私が理想としているお付き合いができる人です。私は、デザインに限らず、なんでも気軽に相談、質問してくださいねというスタンスのため、熱量を持っていろいろ話してくれる釘田さんとの相性の良さを感じています。また、ビジネスとしてだけではなく、人間対人間としての信頼関係が構築できている実感もあり、ベストな関係です。

――ありがとうございます。お2人の今後のビジョンについても、ぜひお聞かせください。

釘田:結婚、妊娠、出産、子育てというライフスタイルの変化に伴い、私の意識も売上拡大から、女性が働くことや子ども、教育へと変化しています。そのなかで改めて感じるのは、湖南市に暮らす人、大人だけでなく子どもたちにも、弥平とうがらしをもっと知ってほしいとの想いです。

2024年より、滋賀大学さんと共同研究契約を結び、成分分析と教育の観点の2本柱で動き出しました。まだ始まったばかりですので、来年度以降も継続しつつ、より具体的なアプローチを目指せればと考えています。あとは、経営の安定化、多角経営なども少しずつ視野に入れつつといったところですね。

中土:釘田さんのお話も踏まえつつ、改めて思うのは、経営とデザインは、両輪だということ。私も、マネジメントや経営の分野にもコミットできるデザイナーを目指し、より良いサポートに努めます。

釘田:かなりニーズがあると思いますよ。ぜひ、今後ともよろしくお願いします。

 

インタビュー・ライティング|松岡 人代
撮影|藤田 篤(宮クリエイション)